好酸球性胃腸炎の治療の現在地点 2025年5月
本記事は、難病当事者による闘病体験および公的情報・添付文書等の個人調査に基づいています。医学的診断・処方・治療の指示を行うものではありません。服薬や治療の変更・判断は、必ずご自身の主治医にご相談ください。
好酸球性胃腸炎の治療方法に関する研究総括
好酸球性胃腸炎(Eosinophilic Gastroenteritis, EGE)は、消化管組織に好酸球の異常な浸潤が生じ、機能不全と炎症を引き起こす疾患です。本レポートでは、現在の研究に基づく治療方法とその有効性について総括します。
疾患概念と臨床的特徴
好酸球性胃腸炎は好酸球性消化管疾患(Eosinophilic gastrointestinal disorders, EGIDs)に含まれ、好酸球性食道炎(EoE)と異なり、胃や腸管に炎症を起こします。下痢、腹痛、嘔吐、腹部膨満感などの症状を呈し、病変が最も好発するのは小腸、次いで大腸とされています[7]。血液検査では約80%の例で末梢血好酸球増多を認め、診断の手がかりとなります。アレルギー疾患との関連も示唆されています。
治療の基本方針
好酸球性胃腸炎の治療には複数のアプローチが存在しますが、エビデンスレベルの高い報告は限られています。治療選択は症状の重症度、病態、患者の状態などを考慮して個別化する必要があります。
全身性ステロイド治療
全身性ステロイド治療は現在、好酸球性胃腸炎の第一選択薬として位置づけられています。
推奨度と根拠:
重症例の急性期や難治例における寛解導入には強い推奨(合意率92%)がされていますが、エビデンスレベルはD(とても弱い)とされています[12]。
投与量はプレドニゾロン0.5-2mg/kg/日から開始し、1-2週後から漸減するのが一般的です。
有効性と課題:
約9割の患者で短期的な症状改善がみられますが、治療終了後の再発率は約60%と高いです[7]。
頻回再発例やステロイド依存性の症例、ステロイド抵抗性の症例も存在します。
長期投与では骨粗しょう症などの副作用リスクがあり、漫然とした使用は避けるべきです。
局所ステロイド治療
好酸球性食道炎では局所ステロイドが有用ですが、胃腸炎では優先度は低いとされています。
推奨度と根拠:
局所ステロイドの使用については「推奨を判断するだけの十分なエビデンスや使用経験がなく有効性が不明」(合意率92%)とされています[12]。
炎症性腸疾患で使用される腸溶性徐放製剤が症例によって選択されることがあります。
研究状況:
好酸球性胃腸炎での有用性の報告は少数のみで[62-64]、剤型や用量面での統一もなされていません。
本邦ではクローン病に対するブデソニドの腸溶性徐放製剤が承認されていますが、好酸球性胃腸炎での安全性は確立していません。
食事療法
食物摂取に関連して症状を示す場合、特に小児を中心に食物除去療法が行われることがあります。
推奨度と根拠:
食物除去療法(経験的[主要抗原]あるいは選択的原因食物除去、成分栄養)は弱い推奨(合意率92%)、エビデンスレベルDとされています[12]。
効果と実施方法:
症状改善率は小児で87.2%、成人で88%と報告されており、80%に組織学的な好酸球浸潤の改善がみられています。
除去内容としては、6種抗原除去などの経験的食物除去が本邦からも報告されていますが、栄養学的評価やQOL低下に注意が必要です。
根本治療としての効果(治癒)は得られにくいという報告が多いです。
抗アレルギー薬
抗アレルギー薬は全身性ステロイドに比べ副作用が少ないことから、しばしば使用されています。
推奨度と根拠:
抗アレルギー薬(特にロイコトリエン受容体拮抗薬)の投与は強い推奨(合意率100%)、エビデンスレベルCとされています[12]。
有効性の根拠:
ロイコトリエン受容体拮抗薬(特にモンテルカスト)については十二指腸好酸球浸潤に対する効果についてランダム化比較試験も含め複数の報告があります[70-72]。
全身性ステロイドの減量中止効果について、ロイコトリエン受容体拮抗薬、トシル酸スプラタスト、抗ヒスタミン薬、クロモグリク酸ナトリウムを含む19例中15例(79%)で全身性ステロイドが減量・中止できたと報告されています[73-76]。
その他の治療法
免疫抑制薬:
アザチオプリンについては全身性ステロイド依存性あるいは抵抗性患者でのステロイド減量効果の報告があります[85-87]。
シクロスポリン、タクロリムスについては肝臓移植後の使用中にEGE発症例が報告されており、関連性が示唆されています。
生物学的製剤:
メポリズマブ(抗IL-5)とオマリズマブ(抗IgE)についてもその効果が報告されています。
Th2サイトカインを標的とした生物学的製剤が臨床的、組織学的に効果を示すことが報告されています[12][16]。
その他:
制酸剤(特にPPI)については一部の症例での効果が報告されています。
ヘリコバクター・ピロリ除菌治療[79-81]、抗TNFα療法、漢方薬、インターフェロンαの奏効例も報告されています。
手術療法は、EGEに伴って発症した腸閉塞や穿孔など手術が不可避な場合を除き、安易な実施は避けるべきとされています。
治療の課題と今後の展望
好酸球性胃腸炎は慢性疾患の経過をとり、しばしば再燃することが報告されています。寛解後の再燃への早期介入、維持療法が予後には重要です。また、原因抗原がある程度判明し、原因食物の除去が奏効する場合には根本的な治療につながる可能性もありますが、一般的には原因食物の同定は容易ではありません。
最近では生物学的製剤など新たな治療法の報告も増えており、特に難治例や再発例に対する治療選択肢として期待されています。今後、より高いエビデンスレベルの研究が蓄積されることで、治療ガイドラインがさらに充実していくことが望まれます。
結論
好酸球性胃腸炎の治療では、現状では全身性ステロイドが第一選択薬として用いられていますが、副作用リスクを考慮し、症例に応じて抗アレルギー薬や食事療法なども積極的に検討されるべきです。難治例では免疫抑制薬や生物学的製剤の使用も考慮されます。今後のさらなる研究による治療法の確立が期待されます。
Citations: [1] https://www.ncchd.go.jp/hospital/sickness/children/allergy/egid.html [2] https://www.jstage.jst.go.jp/article/pde/86/1/86_136/_pdf [3] https://www.ncchd.go.jp/press/2022/1124.html [4] https://minds.jcqhc.or.jp/summary/c00602/ [5] https://minds.jcqhc.or.jp/summary/c00602/ [6] https://mhlw-grants.niph.go.jp/system/files/2019/192051/201911035A_upload/201911035A202006121057152410002.pdf [7] https://www.yakuji.co.jp/entry96124.html [8] https://kouseikyoku.mhlw.go.jp/tokaihokuriku/iryo_hoken/yakka/000348031.pdf [9] https://mhlw-grants.niph.go.jp/project/17292 [10] https://www.ncchd.go.jp/center/activity/egid/patient/ege.html [11] https://www.ncchd.go.jp/hospital/sickness/children/allergy/EGIDs_guideline.pdf [12] https://www.ncchd.go.jp/hospital/sickness/children/allergy/EGIDs_guideline.pdf [13] https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/107/3/107_438/_pdf [14] https://www.carenet.com/news/clear/journal/59138 [15] https://www.nanbyou.or.jp/entry/3935 [16] https://www.jstage.jst.go.jp/article/arerugi/69/4/69_260/_pdf [17] https://seiwa-mc.jp/patients/departments/gastroenterology/egids/ [18] https://webview.isho.jp/journal/detail/abs/10.19020/CG.0000002633 [19] https://www.jstage.jst.go.jp/article/gee/54/6/54_1797/_pdf [20] https://nsmc.hosp.go.jp/Journal/2021-11/SMCJ2021-11-2_casereport05.pdf [21] https://mhlw-grants.niph.go.jp/system/files/report_pdf/202211008A-sonota12.pdf [22] https://www.jstage.jst.go.jp/article/gee/61/3/61_225/_html/-char/ja [23] https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/110/12/110_2631/_pdf [24] https://kompas.hosp.keio.ac.jp/presentation/202405/ [25] https://www.ncchd.go.jp/hospital/sickness/children/allergy/EGIDs_guideline.pdf [26] https://mhlw-grants.niph.go.jp/system/files/2018/182051/201811052A_upload/201811052A0010.pdf [27] https://yanagi-clinic.jp/publics/index/1/detail=1/b_id=1/r_id=285/ [28] https://www.carenet.com/news/clear/journal/59138 [29] https://www.jspaci.jp/assets/documents/eoe-ege-guidline_07282020.pdf [30] https://minds.jcqhc.or.jp/summary/c00602/ [31] https://www.astrazeneca.co.jp/media/press-releases1/2019/2019090501.html [32] https://www.nejm.jp/abstract/vol390.p2239 [33] https://www.jsaweb.jp/uploads/files/jsa_bunshi20221124.pdf [34] https://store.isho.jp/search/detail/productId/1600002220 [35] https://www.mhlw.go.jp/content/10905000/000857634.pdf [36] https://webview.isho.jp/journal/detail/abs/10.34433/J00697.2021278703 [37] https://jglobal.jst.go.jp/detail?JGLOBAL_ID=202202265747730684 [38] https://www.nanbyou.or.jp/entry/3934 [39] https://www.jspaci.jp/news/member/20200915-1602/